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「糖質過剰」症候群~あらゆる病に共通する原因~

「糖質過剰」症候群?あらゆる病に共通する原因? (光文社新書)

「糖質過剰」症候群?あらゆる病に共通する原因? (光文社新書)

 

著者はペインクリニックの医師。


主な内容は、糖質過剰が関わると思われる病気や症状を挙げ、そう考えられる理由と出典をその都度示している。

他に、赤ちゃんのこと、歴史的背景についても書かれている。
出典を沢山挙げていることもあり、論文の真偽や研究と企業の関係などにも踏み込んでいて面白い。

 

糖質過剰の影響は個人差や臓器により違うので一概に言えないと書いており、具体的にどう対策すればよいかは一切書いてない。そのため、糖質制限のやり方を知りたい人には参考にならないが、因果関係を理解したい人には参考になる。

細かく出典が記載されているのと、どのように作用しているのかが専門用語で書いてあるので、医療関係者や詳しく知りたい人向け。

 

個人的に思い当たることが沢山あったのと、緩い糖質制限で症状が劇的に良くなったことがあり理由を知りたかったので読んでよかった。

  

 

メモ:

●糖質過剰の影響
・糖質過剰摂取では血糖値が急上昇し、その後、通常の値まで低下するが、そのような急上昇の山ができることを「グルコーススパイク(血糖値スパイク)」という。  このグルコーススパイクが、酸化ストレスを増大させたり、炎症反応を増加させ、血管を傷つける。酸化ストレスは、体の中で発生する活性酸素という有害物質が、抗酸化物質などでうまく除去できる量を上回る場合に起きる。

●個人差、臓器差
・血糖とインスリンが多い場合や少ない場合に対する感受性が、非常に個人差が大きいことと、その人の個々の臓器によってもその感受性が異なると思われる。インスリンが多すぎることに弱い臓器もあれば、インスリンが少ないことに弱い臓器もある。
・また、同じものを食べても、人によって血糖値の上がり方は異なる。例えば、クッキーよりもバナナの方が血糖値が上がりやすい人もいれば、その逆の人もいる。食べる時間、一緒に食べるものなどによっても血糖値の反応は変化するのである。

インスリン
インスリンの分泌には、主に次の3つがある。空腹時にも微量に分泌されている「基礎分泌」、食後に一時的に分泌される「追加分泌」、そして 12 ~ 15 分ほどの周期で波打つように分泌される「周期的分泌」である。
・「インスリン抵抗性」とは、簡単に説明すれば、「インスリンが組織や臓器に十分に作用しない状態」である。
・糖質を摂取してインスリンが分泌されるから、摂取した糖質が脂肪に変換され、摂取した脂質がそのまま体の脂肪になるのである。

●グリコカリックス
・血管の内腔にはグリコカリックスというものが、毛のようにびっちりと生えている。このグリコカリックスが血管の内腔の滑らかさを保っているのであるが、グリコカリックスは高血糖により減少することもわかっている。
・グリコカリックスの役割は、血管透過性障壁の維持、血管拡張作用のある一酸化窒素生産の仲介、スーパーオキシドジスムターゼなどの抗酸化物質による血管保護、凝固阻害因子の保持、白血球接着の防止、炎症反応の調節などと考えられている。

●うつのセロトニン
うつ病の原因として、セロトニン仮説というものがある。しかしこの仮説はかなり怪しい。抗うつ薬セロトニンを増加させてうつに対する効果を示しているというデータは、製薬会社が隠していた非公開のデータを合わせて分析すると、ほとんどがプラセボ効果だったのである。しかも、いくつかの抗うつ薬セロトニンを上昇させ、いくつかはセロトニンを低下させ、セロトニンには全く影響を及ぼさないものもあるのである。
うつ病の原因は完全にはわかっていないが、脳の炎症が強く疑われている。その炎症を起こすのも、糖質過剰摂取による高血糖である。

コレステロール中性脂肪
・現在では食事に含まれるコレステロール量は血中のコレステロールと関係していないことがわかっている。
・古い考えでは、脂質の摂りすぎが脂質異常症を招くと考えられてきた。  しかし、いくつもの研究により、糖質の摂取量が増えるほど中性脂肪が増加し、HDLコレステロールが減少することがわかっている。つまり、脂質異常症高脂血症)も糖質過剰症候群なのである。
糖質制限によって変化する血中の脂質のパラメーターを、心血管疾患のリスクに照らし合わせると、LDLコレステロール以外は全てリスク低下の方向に大きく動く。LDLコレステロールよりもリスク低下に大きく関連すると考えられているパラメーターも良い方向に改善する。LDLコレステロールの増加だけを見て糖質制限を批判するのは、的を射ていない(資料 17)。

乳がん
乳がんの細胞には、インスリン受容体が正常の人の6倍も存在するのである。インスリンを過剰に分泌させることは避けた方がよい。

●子宮
・糖質過剰摂取により高インスリン血症、高IGF‐1血症になるが、大量のインスリンとIGF‐1には細胞増殖性があり、成長因子としても働くのである。  そうすると、その大量のインスリンとIGF‐1に感受性を持った人では、どんどんと子宮の組織が異常増殖すると考えられる。もちろん女性ホルモンのエストロゲンも、筋腫の発育などに大きく関わると考えられているが、インスリンやIGF‐1は、そのエストロゲンを増加させるのである。
高血糖によって炎症が加わるので、お腹の中で子宮と周りの組織が癒着を起こし、痛みの原因になってしまうと考えられる。  IGF‐1は、エストロゲンの作用の下で、子宮内膜細胞の分化に役割を果たしていると考えられている。重症の子宮内膜症の子宮内膜ではIGF‐1が高値を示すなど、子宮内膜症にも大きく関わっていることが考えられる。
子宮筋腫子宮内膜症も、ひどい生理痛を伴うことが多い。高血糖による炎症も加われば痛みはさらに増す可能性もある。鎮痛剤で生理痛をごまかしていると、その裏で病気が進行しているかもしれない。  一般に、糖質制限を行うと生理痛が非常に減少するということが多く認められる。
・例えば、血中IGF‐1値は、思春期に急激に上昇し、初潮発来1年前でピークとなるなど、女性の初潮はIGF‐1やエストロゲンと深く関連している。  これを考えると、1900年代初頭では 15 歳前後だった初潮年齢が、現在は 12 歳前後と非常に早くなっているのも、糖質過剰摂取によるものだと思われる。  早い初潮は将来のインスリン抵抗性と関連していて、 20 ~ 30 歳の 54 人の健康な若い女性を初潮時の年齢別にグループ分けしたところ、初潮年齢が 11 歳以下のグループでは有意にインスリン感受性が低かった

●整形外科の病気
・実は、意外にも、整形外科に関わる病気の多くは、糖質過剰症候群である。  それはなぜか? 骨、軟骨、筋肉、腱、椎間板など、整形外科で扱う組織、臓器は、ほとんどがコラーゲンが主な構成成分なのである。このコラーゲンは、高血糖になると糖化してAGEsが蓄積し、硬く 脆くなり、炎症を起こしやすくなる。

●ニキビ
インスリンは、アンドロゲン(男性ホルモン)の合成を刺激し、高度の皮脂の生成をもたらし、ニキビの重症度との相関が認められている。

●頻尿など
インスリンは膀胱 平滑筋 を 弛緩 させる(緩ませる)作用がある。
・つまり、頻尿や尿失禁は、糖質過剰摂取によるインスリン抵抗性の合図である可能性が高い。

●自己免疫疾患
・自己免疫疾患では、自己の細胞や組織を攻撃してしまう様々な自己抗体というものを作り出す。人間の細胞や組織、酵素や受容体などは、全てタンパク質や脂質でできているため、それらが糖化を起こしたりAGEsが蓄積すると、変性をしてしまう。自分の体の細胞や組織などでありながら、変性によって非自己の細胞と認識されてしまい、自己の免疫がそれらを排除しようとして自己抗体を産生することにより、自己免疫疾患を発症するのでは、と考えられる。

IGF
インスリン様成長因子(IGF)は、骨および骨格筋などの成長および分化に影響を与える成長ホルモンの媒介物質として、 50 年以上も前に発見された。下垂体によって産生される成長ホルモンに応答して、肝臓によって産生されるタンパク質である。体内のほとんどの細胞の成長を制御していると言っても過言ではない。
インスリンとIGFは同じような作用を持っているが、インスリンは、糖やアミノ酸の取り込みの増加、糖のエネルギーとしての利用の促進、糖新生の抑制、脂肪分解の抑制、脂肪合成の促進など、食後に起きる一時的な代謝が主な役割である。  一方、IGFは、細胞増殖や分化の誘導、細胞死の抑制、細胞機能の維持など、細胞そのものの制御や細胞の運命を決定するような長期的な役割が強く、細胞や組織の発達や成長、生殖機能の発達や成熟、タンパク質代謝の制御などを行っているので

●病気になる前の病気
・空腹時高血糖や糖尿病になる前に、局所の臓器がダメージを受けて病気になるのである。

●食事回数
・摂取するエネルギー量を同じにして、1日3回の食事と1日1回だけの食事を摂った場合を比較した研究では、1日1回の食事の方が、体重も体脂肪率も低下し、LDLコレステロールもHDLコレステロールも増加した。1日1食の方が空腹感を強く感じたにもかかわらず、ストレスホルモンであるコルチゾールは低下していた。
・1日に摂る食事の回数を増やせば増やすほど、人間に備わった代謝のメカニズムを狂わし、インスリン分泌量や、インスリンの追加分泌をしている時間を増やしてしまう。
・間食をしないと空腹感が辛いと思うのは、糖質過剰摂取の影響でインスリンが大量に分泌され、それにより高血糖から血糖値が低下し、ときに低血糖に移行するからである。  糖質を摂らず、タンパク質と脂質をしっかり摂れば、空腹感は非常に少なくなる。

●果糖
・原因不明の腹部の症状のある人で、乳糖吸収不良は 35%に認められるが、果糖吸収不良は実に 64%に認められ、複数の糖質の吸収不良を認める人も実に 25%も存在していたという報告もある。
・果糖は代謝の面で、ブドウ糖とは大きく異なると考えられている。果物に豊富に含まれる果糖は、他の糖質とは違い、インスリンとはほぼ独立した形で体内に取り込まれる。腸で吸収された後は速やかに肝臓に運ばれ、そしてほぼ全てが肝臓で代謝され、ブドウ糖やグリコーゲン、中性脂肪に変換される。
・血糖値の上昇や、インスリン分泌が少ないので、間違って「健康的な食べ物だ」と思う人がいるのも無理はないが、果糖はブドウ糖よりも危険な内臓脂肪を増加させる。また、血糖値の上昇が少ないことやインスリン分泌を刺激しない分、脳に送られる食欲に関する信号(満腹だという信号)が減少してしまう。
・もちろん、果物はビタミンや食物繊維を含んでいるので、全く不健康な食材ではないが、少量にとどめておくべきである。
・果糖は「酔っぱらわないアルコール」だと考えられる。果糖とアルコールは、人間の体内での代謝、その有害性や、体に起きる変化などがそっくりなのである。
・現代の食品には、実に多くの糖質が含まれている。その中で最も多い糖質が果糖なのである。原材料名の表示があるものでは、果糖は「果糖ぶどう糖液糖」などの名前で含まれている。
・糖質の中でも最も毒性が高いと考えられているのが果糖である。果糖を過剰摂取すると、中性脂肪値が増加し、sdLDLや酸化LDLまで増加する。最も心臓や血管を痛めつける糖質が果糖だ(資料 15)。

糖質制限と他の因子
・一つは、ここで書いてきた全ての病気の原因が糖質過剰摂取だけではないことである。糖質過剰摂取だけのものもあるが、多因子性の病気もある。ただ、多因子であっても、原因の中の糖質過剰摂取のウェイトは非常に大きいと思われる。  もう一つは、糖質制限は万病に効くわけではないということである。全てを逆転できるわけではない。それは、糖質過剰摂取により何十年もかかって変化してきた状態が、糖質制限をした途端にすぐに改善するのが難しい状態も多々あるからである。
・ただ単に、高血糖や高インスリン血症に反応しているものは改善する。しかし、組織や臓器が変化した後、元の健康な状態に近くなるまでには、もしかしたら同じ年月以上の時間がかかる可能性があるし、戻らないこともある。それはAGEsの蓄積した組織は非常に排除されにくいからであるし、一度増殖してしまった組織はそのままであるからである。  しかし、早い段階であれば、自己治癒力により元に戻ったり、残りの機能で十分に問題が起きないようにできる場合もある。だが、そのままの食事を続ければ悪化の一途をたどる可能性が高い。

●ほか
・痛みを訴えてくる人は、ほとんどが糖質過剰である。