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日本画を描く悦び

〈オールカラー版〉日本画を描く悦び (光文社新書)

〈オールカラー版〉日本画を描く悦び (光文社新書)

 

日本画家、千住博さんの本。

 

メモらなかったけど、歴史的なことが結構書かれているので、絵を描かない人でも読み物として面白いかも。戦後の日本画のあたりが面白かった。

 

千住さんの絵が多く載っていて、Kindleだと白黒だけどそれでもハッとする美しさで目の保養と、絵があることで文章とあいまって説得力がある。

 

 

メモ:

・その時その時に一番惹きつけられるものを描くこと――、それが、私のモチーフ選びの基本でした。

若冲の場合もマグリットと同様、実生活は誠に地味なもので、その反面、自分の中の衝動や心の高揚をすべて作品に盛り込んだといえる人生だったのでしょう。私は

・しかし意外と、そういうサラリーマンか役人のような格好をしている時に、蛍光塗料を使って絵を描いてみようとか、絵を揉んで崖の表情をつくってみようとか、極彩色で滝のステンドグラスをつくってみようかとか、これまで誰も思ってもみなかったような、そんなとんでもないことを思いつくものです。

・質の高い仕事をしようと思ったら、まずは作品に向かう時の精神の状態が喜怒哀楽に偏らず、安定していることが大切です。例えば喜びや怒りといった一つの感情だけで絵に向かっても、いい作品が生まれることはありません。

・描き始めた当初の感情を画面にぶつけようとしても、描き進めるうちに心のリアリティーは薄れ、不自然な絵になり、思い入れのわりには魅力のない作品になってしまうのです。

・今でも同じようなエネルギーをぶつけて制作していたらさぞかし素晴らしい作品をつくっていただろうと思うと、とても残念な気持ちになります。  

・休んだらそこが終わりです。多分、芸術の女神が、「せっかくとてつもない能力を授けたのに残念なことよ。あなたには自由に休む権利までは与えていなかった」と怒り、見放されてしまうのでしょう。

・芸術家の中には、愛欲や金銭欲でドロドロという人もいますが、ピカソみたいな例外は除き、基本的にそういう人は仕事は二の次になるので、この生き方は駄目だと思います。

・もっとより良い絵が描けるようになりたいと願う気持ちこそが、時として作品を前進させる大いなる原動力になります。逆に、どうでもいいと思ってしまった所が到達点になるということです。

・その人の知性、人間性、心の強さ・弱さや感受性が結局、多くの人の前にさらけ出されてしまうことになるのが、作品を世に出す芸術家の人生というものです。

・私は、芸術作品というのは頭から離れないイメージや、最悪の場合、トラウマのような世界をひきずる例も多いということに気がついてきました。

・空に浮かぶ岩といった作品は、何かに追い詰められている感じがひしひしと伝わってきます。これらは、何らかの幼児体験や思春期の辛い思い出が強迫観念として本人を苦しめていて、それが映像として画面に投影された結果ではないかと思えたりします。

・本人に本当にリアリティーがないと、つまり、つくり話みたいなものを描いていても、そのうちにやっぱりウソっぽいな、と感じてあきてしまうのです。要するに、本人が心から信じていること、しかし不幸にして他人から見れば空想や妄想に見える場合もあるにせよ、そのようなものこそが実は絵になるのでは、と思っています。

・「いい絵を描こう」などと思っている限りは一筆も手が入りませんでした。初心に戻り、今、絵が描けることの幸せにただ立ち返った時だけ、筆が進みました。

・ただただ、私は出合った岩絵の具の魅力と向き合い、紙の魅力と向き合い、天然動物膠という実に生命の息吹を感じる定着剤を慈しんで使う、この技法との対話を用いて、伝達不可能と思われるイマジネーションをコミュニケーションするということ、すなわち芸術的行為を悪戦苦闘しながらしているだけなのです。